AI職務権限規程 ・投稿日:2026年10月27日
AIは労働者ではない。だから主語は人に置く
質問(現場の視点)
AIを社員のように働かせるなら、AIにも就業規則を適用できますか。
Chat先生の回答(AI)
適用できません。労働基準法の「労働者」は、事業に使用され、賃金を支払われる人のことです。AIはこれに当たりません。就業規則でAIを直接縛ることはできず、AIが規則に違反しても、懲戒することはできません。そこで、AIの働き方を定める規程は、主語をAIではなく人に置いて書きます。これが、社会保険労務士の小山田政義(AI労務デザイン室)が社内規程として体系化した「AI職務権限規程」の基本の考え方です。
「AIの就業規則」は呼び名、中身は人のルール
AI職務権限規程を、分かりやすく「AIの就業規則」と呼ぶことがあります。経営者に一言で伝わるからです。ただ、法律の上での中身は、AIを動かす人のためのルールです。
たとえば、「AIは、データを削除してはならない」とだけ書いても、それは願いでしかありません。守らなかったときに責任を負う人がいないからです。人を主語にすると、次のように書けます。
AIに指示を出してよいのは、責任者として指名された者に限る
責任者は、データの削除をAIに行わせてはならない
AIが行った操作の結果は、指示を出した者が確かめる
こう書けば、守らなかったときの責任は、指示を出した人、確かめるべきだった人にあります。社員の職務を定める普通の社内規程として成り立ちます。
懲戒につなげるなら、就業規則の手続きを
AI職務権限規程に違反した社員を懲戒の対象にするなら、その規程は就業規則の一部として扱うことになります。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、労働者の過半数代表の意見を聴き、労働基準監督署に届け出て、社員に周知する手続きが必要です。手続きを踏まずに懲戒の根拠にしようとしても、争いになったときに通らないおそれがあります。
この点は、Webの安全管理を就業規則の附属規程として定める「Web安全管理規程」と同じ考え方です。
同じ文書を、AIにも読ませる
主語を人に置いたうえで、同じ文書をAIにもそのまま読ませることができます。AIは、文章で与えられた指示に沿って動くからです。人にとっては社内規程として、AIにとっては自分の働き方の指示書として、一つの文書が両方に効きます。
ただし、AIが読んだからといって、必ずその通りに動くとは限りません。AIは、ほかの文章に紛れ込んだ指示に引きずられることもあります。ですから、規程を読ませるだけで終わらせず、AIに渡す鍵の範囲そのものを、規程に合わせて絞っておく必要があります。紙で決めた線を、鍵の設定でも引く。この二つがそろって、初めて規程が効きます。
AIのしたことの責任は、会社が負う
AIは労働者ではないので、責任も負いません。AIが行った操作の結果は、法律の上では、それを使わせた会社と、指示を出した人の責任になります。「AIが勝手にやった」は、取引先にも、個人情報保護委員会にも通用しません。
だからこそ、誰がAIに何を任せたのかを、平時に紙に書いておく必要があります。AI職務権限規程は、AIを縛るための紙ではなく、AIを使う人の責任を明らかにするための紙なのです。
さらに詳しく
人を主語にしたAI職務権限規程の見本の条文と、就業規則の附属規程として定める「Web安全管理規程」の全文は、書籍『ホームページは誰が守っているのか』(2026年10月31日発売予定、Kindle)に収録しています。自社の点検には、iPhoneアプリ「Web安全管理 実践力手帳」をご利用ください。